遺産相続コラム
2026/06/15 2026/05/21

親の介護費用を負担していたら…相続で精算できる?

長年にわたり、自分の時間や費用を割いて親の介護を献身的に行ってきた相続人がいる場合、他の兄弟姉妹と比べて「自分だけが報われないのではないか」と感じることがあります。

介護にかかった費用や労力は、相続の際に「精算」し、その貢献に見合う分を多くもらうことができるのでしょうか? 相続における**「寄与分」と「特別受益」**の観点から、この問題について解説します。

 

1.介護の「労力」は報われるか?寄与分(きよぶん)

○寄与分とは?:寄与分とは、亡くなった人(被相続人)の財産の維持または増加に特別に貢献した相続人がいる場合に、その貢献度に応じて、法定相続分以上の財産を取得できる制度です(民法第904条の2)。

 

○介護の労力: 献身的な介護が、結果的にヘルパー費用や施設費用の支出を抑え、**財産の減少を防いだ(財産の維持)**と認められれば、「寄与分」として評価される可能性があります。

 

○寄与分のハードルは高い:しかし、単なる扶養義務の範囲内の世話や家事手伝いと見なされる場合が多く、寄与分として認められるハードルは非常に高いのが実情です。

 

○「特別の寄与」の証明: 「被相続人の財産の維持・増加に対する特別な貢献」があったことを、客観的に証明する必要があります。例えば、専門職の介護士を雇うのと同等のレベルで、長期間かつ特別な方法で介護を行ったことなどが必要です。

 

○金額の決定: 寄与分の金額は、原則として相続人全員の話し合い(遺産分割協議)で決めなければなりません。もし協議で合意に至らなければ、家庭裁判所での審判を求めることになりますが、裁判所が寄与分を認めるケースは限定的です。

 

2.介護で支出した「費用」は精算できるか?不当利得・立替金

○被相続人のために支払った場合(立替金)

被相続人が本来払うべき費用を、相続人が一時的に立て替えていた場合(例:親の銀行口座が凍結されたため、一時的に医療費、介護用品費、施設入所費用などを立て替えた)、これは立替金(貸付金)として扱われます。

遺産分割の前に、その立替金を遺産全体から返済してもらうことができます。領収書など、客観的な証拠が必要です。

 

○相続人が勝手に支出した場合

被相続人の意思に反して支出した費用や、被相続人が負担すべきでない費用については、精算は難しいと考えられます。

 

○他の兄弟の扶養義務を代わりに果たした場合(不当利得)

本来、他の兄弟も分担すべき扶養義務を、特定の相続人が一人で全て負担していた場合、その費用の一部を他の兄弟に請求できる可能性(不当利得返還請求)がありますが、これも法的な判断が難しく、争いになりやすい点です。

 

3.争いを避けるための対策

 

○遺言書の活用

親(被相続人)が遺言書を作成し、介護に貢献してくれた子どもに対し、その貢献に報いる趣旨で、法定相続分より多くの財産を相続させることが考えられます。

相続人の貢献が寄与分として裁判所で認められなくても、遺言書があれば、親の意思として財産の配分が実現します。

「長年の献身的な介護に対し、感謝の意を込めて」といった付言事項を添えることで、他の相続人の納得を得やすくなります。

 

○介護費用を「契約」で処理する

親の財産管理や介護費用について、「家族信託」や「任意後見契約」を結ぶ際に、介護者の報酬や費用負担について明記しておくことも有用です。これにより、単なる立替金ではなく、契約に基づいた費用として精算しやすくなります。

 

○生前に家族間で「話し合い」の場を持つ

介護が始まる段階で、費用負担や労力分担について、他の兄弟姉妹を含めて話し合い、合意書を作成しておくことが非常に重要です。

「費用については、一旦〇〇が立て替え、後で〇〇が管理する親の財産から精算する」といった取り決めをしておくことで、後のトラブルを避けられます。

弁護士 今里 晋也

※ご相談・ご予約はこちらをクリックして下さい※

電話:093-571-4688

© 北九州第一法律事務所